CAT JACQUAED® Easy Chair

CAT JACQUAED® Easy Chair

by Yusuke Inaguma

織機で柄を織り込み、模様の裏側に残った長い糸を切り取った「カットジャガード」。ジャガード生地のなかでも限られた織機と職人の技によってのみ生産される素材です。ひと織りごとに機械を止めて糸を替え、模様を織り上げることで生まれる柔らかな風合いは、家具や洋服などでも独特の存在感を放ちます。この「カット仕上げ」に猫(CAT)の手を借りることで、猫の個性に合わせた風合いに仕上がるのがWECATSの「CAT JACQUAED®(キャットジャガード)」。ジャガードの生地で有名な桐生の機屋と開発したオリジナルのテキスタイルは、猫の引っ掻き欲を最大限に刺激する素材と風合いを追求しています。今回は、この生地を使ってイージーチェアを制作して頂いた稲熊家具製作所の稲熊 祐典(いなぐま ゆうすけ)さんにお話を伺いました。

描いたものがそのまま形になる仕事

1987年に愛知県で生まれた稲熊さん。テレビ番組で見た建築家の仕事に憧れ、大学で建築を学びますが、在学中に木工の講義で家具作りに目覚めます。

「大学では陶芸や金工など、一通りの講義に参加しました。建築の勉強をしていたのですが、スケール感が自分に合わないというか、勉強していてもいまいちしっくりこなくて、そんなときに出会った木工の講義は新鮮でした。スケッチで描いたものが、自分の手によってそのまま形になるのが面白くて、建築にはないダイナミズムが新鮮だったんです。卒業後は家具メーカーに就職しましたが、どこで働くにしても3年で独立すると決めていました。技術や素材についてしっかり学び、生活で毎日使える道具を自分の手で生み出したい。そんな想いで設立したのが稲熊家具製作所。特注家具製作を中心に、無垢材と金属の特徴を生かした家具を作っています」

材木屋で出会ったインスピレーション

しかし、いざ独立したものの順風満帆とは行かず、三年ほどは試行錯誤に明け暮れます。このままではその他大勢の家具メーカーと変わらない。意を決し、それまでのデザインと決別して新たなクリエイションに取り組みます。

「それまでは“SIMPLE is BEST”だと思って家具をデザインしていました。価格勝負ではなく、素材を生かして設計にしっかり手間と思考を注ぎ込んだ家具を作っていたつもりでしたが、どうにも自分らしさが出せていなかった。そこでブランドのデザインをすべてリニューアルすることに決め、先に展示会の日程を発表したんです。背水の陣で家具の本質に向き合い、ノートにデッサンを続ける日々でした。そんなあるとき、ふと材木屋に行ってみたんですが、そこのご主人が本当に木のことが大好きで、いろいろな木目や色味、加工の違う素材を見せてくれたんです。その素材の魅力にインスピレーションを得て作ったのが『ブックマッチ』のテーブルです。一本の原木から製材された板を“本帆開く”ように互い違いに接ぎ合わせることで、美しい木目がシンメトリックに表現できます」

同じものは二つと作らない

ブックマッチや一枚板のテーブルは天板の美しさとは裏腹に土台となる脚も重厚なものが多く、「トータルで美しいデザインのテーブルは少なかった」と稲熊さんは言います。そこで、ソリッドな金属を使ってデザイン的なメリハリを付け、さらに強度の違う素材を用いることで、独自の構造的なデザインが生まれました。

「異素材を組み合わせ、質感や色味だけでなくパーツごとの強度などを構造的なデザインに組み込むのが僕のデザインの特徴です。造形に関してはディティールに落とし込む際に、光が当たった時の陰影をイメージするようにしています。重たいものでも軽く感じるデザインは使い勝手にも通じます。ブランドとして家具の品質は担保しながらも、完成が想像できてしまうものを作っていてもつまらない。“これと同じものを”というオーダーでも、少し変化を付けさせてもらうようにしています。自分で自分の真似をしたくないし、同じシリーズだとしても作りながら思考していきたい。家具は毎日触れ、目にするものだからこそ、なにかに目をつぶってごまかしたものは売りたくないですね」

デザインは背景から考える

こうして独自のデザイン言語を生み出した稲熊さん。WECATSの「CAT JACQUAED®(キャットジャガード)」で美しいイージーチェアを作ってくれました。

「構造と造形に加えて、その家具がどういう所に置かれると映えるかをイメージしながらデザインしています。今回の場合は生地そのものがユニークなのはもちろんですが、猫と暮らすための椅子というコンセプトが面白かった。僕は猫を飼ったことがないので、逆に色々と自由に想像できたのかもしれないです。ベースはイージーチェアと呼ばれるスタイルの椅子で、少し低めに設計しています。ダイニングではなく、リビングで寛ぐための椅子ですね。猫はきまぐれなので、そばにいてもいなくてもゆったりした時間を過ごして欲しいと思いました。特徴としては、背もたれを脇までたっぷり作っています。生地を張り込むのに苦労する構造になりましたが、結果的に猫が丸まって寝ても収まりが良いし、座面の面積もゆったりしたことでさまざまな姿勢で寛ぐことができます。カエデは白っぽい木肌に緻密な木目が美しい素材です。肘掛けに腕を置くとちょうど手のあたるあたりの木の感触がすべすべして気持ちいいですよね。猫も人間もずっと触れたくなる肌触りに仕上げています」

猫の手を借りて仕上げる椅子

素材はカエデを使っているのですが、生地の色味とよく合うだけでなく、なめらかな手触りが猫にもたまらない一脚に仕上がりました。

「椅子って実は正面より背中の印象が大事だと思うんです。今回のデザインのキモは猫による仕上げなので、背面のカーブをとても大切にしました。猫が爪とぎしやすいだけでなく、猫がカットした糸の表情がしっかり楽しめると思います。細かなところでは、ディティールやシルエットに爪や肉球など猫のモチーフをしっかり詰め込んでいます。独特なデザインですが、変なクセは出さずにしっかりと収まりの良いデザインに仕上げました。この椅子の構造自体は70年前の北欧で完成したものですが、いろいろなアイデアを思いついてからトータルのバランスを整えるまでに半年くらいかかりました。ユニークなコンセプトをしっかりと上質なインテリアにまとめる面白いプロジェクトになったと思います。ぜひ愛猫家の暮らしを彩る一脚になることを願っています」

CAT JACQUAED® Easy Chair
by Yusuke Inaguma

価格:280,000+税

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